奔放な天才肌二人の才能を世に出した少年の成長記「長崎の竹蜻蛉は誰よりも天高く」
画像:長崎の竹蜻蛉は誰よりも天高く|Amazon
少年ゆえの無鉄砲さが、激動の時代にあるべき生き方を模索していく
実在する人物が主人公
堀江鍬次郎という今の伊勢にあたる安濃津領から長崎に遊学に来た少年と、長崎の”問題児”こと上野彦馬の二人の友情の物語。鍬次郎の方は武士であり、「国の領主さまの役に立つ」ために長崎へと出港する。一方彦馬の方は武士ではない出自で、自由で天才肌ゆえに、世の不条理にも気づきやすい性格をしています。
お家のために蘭学を学べと口うるさい家族に反発し、自分の興味に従い舎密学(今の化学)を追求しようとします。一方真面目臭い鍬次郎はというと、真面目で努力家であり細かいことにも気を配れる男でありながら、どこか彦馬と似た気風の領主、藤堂高猷に惹かれ憧れています。
モチーフの使い方がうまい
そんな鍬次郎と彦馬は最初はことあるごとに対立します。鍬次郎が古里から持ってきた(くすねてきた?)大事な父親の小刀を「長崎の鬼」である彦馬が奪い、そのことが鍬次郎にばれたときには鍬次郎は大層怒りました。
一方彦馬はといえば、舎密学から知識を得て「湿板写真」の現像に伝習所の講義をすっぽかして取り組んでおり、そのために牛の脳が必要ということで牛の頭を切り過ぎて(それほどエグイ描写はないはずなので大丈夫)大事な鍬次郎の刀を刃毀れのボロボロにしてしまっておりました。
しかし、鍬次郎は鍬次郎で奇しくも彦馬と同じ写真術に興味が沸き、世間の情勢から蘭学か兵器学を学ぶ人間が多いなか舎密学に没頭していきます。
小刀というモチーフは、二人の別れのときに、女好きで鍬次郎の手を焼かせた彦馬の不器用な優しさを描いてもおり、全編通じて意味を成す小道具でした(ちょっぴりホロリとなります)。
そして題名にもある「竹とんぼ」。努力家で才能もある鍬次郎ですが、舎密学に没頭しすぎて遊んでいる(?)のに試験の成績だけはめっぽういい天才肌の彦馬に触れるにつれ、「彦馬の才能を世に出す」ことに力を割くようになります。
飽きっぽい彦馬のために写真の準備と片付けを行い……彦馬のお母さんかよ……(笑)
そして後に長崎伝習所の教本にもなったという「舎密局必携」という本を協力して書き上げます。
非情な現実
しかし鍬次郎の夢を静かに脅かす問題が忍び寄ります。
開国、攘夷、色んな世論が乱れ飛び日本が混乱状態にあったとき、長崎で遊学している鍬次郎の故郷、安濃津では領主藤堂高猷は孤立していました。
いつまでも自分のやりたいことだけやっている場合ではない。鍬次郎はいつしか元服しており、大人の男性として世の中と自分の立ち位置を見極めるようになります。それは精神が成長した証明である一方で、学問の推進力となる子どもの好奇心を封じるということ。また、せっかく出会った彦馬と袂を分かつということでした。
伝習所で教えを乞うたオランダ人の医師たちや、思い焦がれたベル(オランダ人)を想い、後ろ髪ひかれる思いで長崎を後にする鍬次郎。あろうことか身体に不調も覚えており、砂時計のように限りある残りの命で故郷の領主を助けるという決断をします。調べてみたら、鍬次郎氏三十代で亡くなっておる……彦馬が心労をかけるから……(え)
当方サイト管理人も、ちょうど「もっと学問をしたいのに金銭的理由で就活しておる」という状況なので、クライマックス近くの鍬次郎の決断に自分を重ねてちょっと辛かったです(笑)
超おすすめ
歴史上の有名人物(坂本龍馬、西郷隆盛etc.)が出てくるわけでも、合戦シーンがあるわけでもない、それでも作家は歴史を描けるんだとどこか希望にもなる傑作でした。読まねば損。
そして、表紙と裏表紙が意味する作中の場面がわかったときもひとしおの感動を覚えます。
※読み終えてから表紙カバーをとってみましょう^^
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