情報過多の現代人必携の書「思考の整理学」
画像:思考の整理学|Amazon
”知る”ことだけに忙殺されないように
忘却の美学
※本作は恐らく評論とかエッセイとかそういう分類にあるものと思われます。いつもの小説の紹介ではないのでご了承ください。
作中では作者はずっと、学校が「グライダー人間」の養成所であって自律飛行する「飛行機」は育成しないことに対し問題意識をもっているようです。
知識を多く持ち(記憶)、それを必要に応じて引き出せる(再生)が知的なことと長らく思われてきましたが、その能力はコンピュータに取って代わられつつあり、さらにその能力だけでは既存の知識で歯が立たない「未知」に対してあまりにも脆弱になってしまいます。
勉強はできるけど社会では役に立たない、そんな学生はこれにあたります。
人間にしかできない領域が想像的な思考であり、本作はその手引書のようなものです。
作者は文中で度々「見つめる鍋は煮えない」ということわざを引用します。
切羽詰まってそれだけを考えていると事態はなかなか進まず、他のことをしていたりしてふと気がそれたときにこそ重要なアイデアは生まれると、自身の体験からも引用し述べています。
頭の中央に置きすぎず、少し横に置いておく。それで消えてしまうほどのことは大したアイデアではなく、残ったアイデアこそ大事にする。そんなことが書いてあったように思います。
「寝て起きたら問題が解決していた」偉大な先人たちに学び、睡眠により適度に忘れ整理された朝の時間が思索にとても有効だと言っています。
夜型の私には耳が痛いです。確かに夜ほど考えって迷宮入りしますし何も生み出さない傾向あります💦
忘れるためのメモと散歩
個人的に目から鱗だったのは、忘れるためにメモをとる、ということでした。
いいアイデアと思ったものをあえて置いておき熟成させることで、要らない贅肉を削ぎ、関連性から新しいアイデアを産み、より純化させていく。覚えるためにノートをとるよう教えられてきた学生としては真逆のことを言われているようです。
作中には作者の具体的なメモ術も述べられており、熟成の度合いによってノートを変え転記するほどのこだわりぶりが伺えます。(詳しいことは購入して確認してください笑)
そして次に適度に忘れるための散歩も奨励しています。あえて別のことをして脳を問題から気を逸らさせることで、一時的な忘却での思考の整理が行われる、というものです。
私も散歩を日課にしようかなと思いました。
情報の氾濫のなかで生き残るために
情報過多の現代で、コンピュータに勝てっこない記憶の蓄積だけに囚われることなく、創造的に考えようじゃないか、それこそ人間の本懐である、といったような人間賛歌が根底にあるように思いました。現代に生きる学生、社会人に必須の良著と思います。
春瀬由衣