【文フリ広島戦利品】幸せなまま死にたい少女と現実主義者の男の子「琥珀」


画像:津蔵坂あけびTwitter

琥珀になりたい――それは本心か、世迷い言か 



今回ご紹介するのはTwitterでお世話になっている津倉坂あけびさんの同人誌です

その名も「琥珀」

琥珀は木の樹液が長い時間をかけて固まったものです。その事実が作中ずっと読者の脳内に留まり続けます。

原因不明の伝染病:サスペクトパシーが新興の伝染病として認知されだした時代。身のまわりのすべてのものを疑い、医者の治療も拒否して最後には亡くなってしまうという恐ろしい病です。しかし主人公は初めそのニュースをどこか「他人事」として捉えます

一方主人公には千尋という同級生がいました。成績優秀で理系科目も文系科目も出来がよいのですが、一般的に数学ができる人は理系、のような括りに染まらずに彼女自身は文系を志しています。彼女は文芸部のようなものにも所属しており、自身の”本能の発露”としての詩を愛しています。

そんな彼女が、徐々におかしくなっていきます。

日常の連続性を極度に疑いだし、やがて自傷に走ります。

琥珀のなかで溺れ死んだ蟻のように幸せなままで死にたいと書いた詩を、駄作と断じます。自分の知らない自分を見つけられるから愛していたはずの、自分が書いた散文詩を否定する――それはある種彼女自身の認めたくない自分だったからではないでしょうか。

千尋はサスペクトパシーと診断されます。伝染病ゆえに彼女は隔離されます。そんな彼女に対し、主人公は一時「彼女が病気でよかった」と思います。彼女が変わってしまったことを自分の責任ではないと思いたかったからです。

……めちゃくちゃ内容は重いですが、それゆえに釘づけになり、憑かれたように読み進めてしまいます。

主人公空太の失敗と成長、そしてそれを意に介さない病の無情、悲恋……

文学フリマに初めて出向き購入した本作ですが、とっってつもなくおススメしたい作品です。

結末をぜひ見届けてください。

エブリスタでもウェブ版もあるようです→琥珀/エブリスタ

春瀬由衣

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