彼らにとって死さえ自由の平原だった「86―エイティシックス― 」

originally posted in 2018-6-24

86―エイティシックス― 電撃文庫 安里アサト著についての書評です。


85の区画内に、優等人種の白人だけがのうのうと暮らし、ヒトとして認められなかった者(有色人種)だけが戦闘区域で次々と押し寄せる敵部隊に死んでいく……

俗に86(エイティシックス)と呼ばれるようになった有色人種たちは、共和国の自由と平等の概念からはみ出した豚として扱われ死んでいく。そして共和国は、「人間の尊厳を守り戦時増税もせず敵を跳ね返し続ける国」として国民(白人たち)の喝采を浴びる……

ラノベと侮るなかれ。使われている通信技術が”知覚同調”でなく”無線”なら、押し寄せる敵が”AI型無人機”ではなく”ISに洗脳された自爆兵器”なら、86(エイティシックス)は現代劇になる。そして、今もなお存在し続けているのかもしれない。

存在してはならない者たちの悲哀――

人の意識の奥深くに眠る差別意識と、言葉のすり替えによる安寧に、痛々しいまでに明かりを当てた本作は、光を覗き込む側の私たちが光に目を潰されるかもしれない、衝撃のディストピアファンタジーである。

兎に角、読んでくれ。しゅごい。

春瀬由衣

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