変わっていく過去と現在に違和感なく引き込まれる「不変のディザイア」

originally posted in 2018-03-05

エブリスタ作家の短編集「5分シリーズ」内の感動の一作


【おすすめポイント】

過去の自分にメールが送れるアプリを主人公が使うところから話は始まる。やや半信半疑ながらも、目の前の悲劇をなんとしても避けるべく一年前の自分にあの手この手で愛する人との交際を諦めさせようとする。

メールを過去の自分が見たことによる過去の変化は、現在の自分の記憶に”付け加えられ”ていく。メールを送るたび過去は変わり、主人公はそれを認識しては落ち込む。どうやっても悲劇は避けられないのか……?

「ああまた記憶が上書きされた」というスタンスから「ああそういうこともあったな」に変わっていく過程に違和感がない。そして”付け加えられた”記憶を確かに”思い出す”たびに、変えた過去には幸せが付加されていく。

悲劇は、ある意味避けられなかった。しかし、アプリは死にゆく主人公に一筋の希望を与える。

手の込んだプロットに感服。涙活したい人におすすめかも。

エブリスタ内での短編新人賞「妄想コンテスト」入賞作からさらに珠玉の作品を集めた「5分シリーズ」は、河出書房から続々刊行中。

春瀬由衣

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