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病と闘う夫婦の記録「明治発熱ー受胎ー」

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明治時代を力強く生きた夫婦の一代記 今回はエブリスタで完結中の 「明治発熱ー受胎ー」 を紹介させていただきます。 本作は元伯爵令嬢のこう子という女性と和菓子屋の店主鷹雄の愛の物語であり、と同時に 病への偏見と闘う家族の物語でもあります。 皮膚が変色・変質し、やがて身体中が魚の鱗のようになってしまう鯉青、通称ウロ(ウロコ)という病気にこう子は罹患します。架空の病気ではありますがその病気に対する国家政策や偏見は実在したある病気をモデルにされています。 その病気に罹患したが最後、全身を黒い鱗に覆われ、血を吐いて死ぬという恐ろしい病。皮膚が変質してしまうことと死にざまがおぞましいことから、恐らくはウロは移りやすい病気とされ、国家的に隔離政策が施されます。 ウロの患者は、それが露呈してしまえば強制的に隔離され、一生施設のなかで過ごさなければいけません。 変な性癖を持つ夫と恥じらう元華族の妻の、反対を押し切ってまで手に入れた仲睦まじい生活に、その病気はヒタヒタと足音を立てて忍び寄り、やがて罹患した妻と何もできぬ夫を哀しみに突き落としてしまいます。 瑠璃子という謎の女性とのやりとりやお得意先への納品などに忙しい夫を気遣い、病気の進行を隠すこう子の健気さが涙を誘います。 ネタバレになるので多くはいえませんが、こう子を救ったのは夫である鷹雄の愛そのものであったと思います。 号泣必至の長編をぜひご覧くださいませ。 春瀬由衣 サイト訪問者の皆さまへ ブログランキング参加中です。下のリンクをぽちっと投票お願いします(๑•̀ㅁ•́ฅ✧ 人気ブログランキング にほんブログ村

あなたの価値観を根底から揺るがすSF大作「ピーリング」

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画像: エブリスタ 化粧品メーカー勤務の冴えない研究者が、 一匹の実験動物と出会ったことで波乱に巻き込まれていく―― 命とはなにか考えさせられる作品です あらすじ   化粧品会社で地味な研究をしていた企業研究者だった主人公。ある一匹の実験動物との出会いがきっかけで、研究仲間を巻き込み世紀の大発見をする。それはガンを治す夢の薬の発見だったが、若返りという本来とは異なる使い方をする人が爆発的に増えてしまう。 開発者の主人公は利益をむさぼろうとする会社を相手に裁判で闘うが、大好きな人を苦しめ、非難の的にしてしまうーーそして、夢の薬の恐るべき真実に気づいたとき、物語は加速する。 一介の冴えない研究者だった主人公が、注目を浴び、それがゆえに闘い、色々なものを失いながらも成長していきます。やがて米国大統領とも知り合いに…… 「ハルヤ。考えてくれたか」 「はい、大統領」  みつきさんの手をぎゅっと握りしめた。 「僕は……、決行を望みます」 この最終章も近いという場面、主人公が背負ったものの大きさを考えると涙が出ます。 おススメポイント   理系の私も読んでいて臨場感を感じられる世界観や設定で、新薬ができるまでの過程や権利関係のややこしい争いなどを主人公目線で体験することができます。 一方、個性的なキャラクターも魅力で、視点が変わることもしばしばあり、恋愛関係にヤキモキしたり……(淡い恋模様にも必見です!) しかし、最終章に近づくにつれて物語は重くなります。どちらにしろ失うものの大きい決断を強いられ、主人公が突きつけられた選択肢はあまりにも過酷で辛いものだったでしょう。その決断に対応するように、愛する人とのたわいもない日常の描写が重いストーリーを際立たせます。 世界の禁忌とも呼ぶべきものに近づいてしまった科学者の壮絶な一代記をご覧あれ! 春瀬由衣 サイト訪問者の皆さまへ ブログランキング参加中です。下のリンクをぽちっと投票お願いします(๑•̀ㅁ•́ฅ✧ 人気 ブログランキング にほんブログ村

天気を読み解くもう1つの視点「微粒子が気候を変える」

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画像: アマゾン 天気の見方が変わる一冊です この本と出合ったきっかけ 私がこの本と出会ったのは、他学部の先生から薦められたことがきっかけでした。 望んで入ったはずの学部で、物理学への興味が薄れていくときに出会った「船の上で海を学ぼう2018」というプロジェクトの参加メンバーからその先生のことを聞き、会いに行ったのです。 その先生は大気のエーロゾルを調べていらっしゃる方でした。 海にでたり学部の棟の屋上で観測をされているとのことでした。 室内でこもるより外に出て実験や観測をしたかった私にとって、この先生の下で研究を行うことこそ、自分が求めていることだったような気がして胸が高まりました。 どうやったら私の今いる学部から先生のいる大学院にいけるかを、図々しくも初見で聞いたりしました。 そうして薦められたのがこの本だったというわけです。 絶版が惜しいと思う 正直、先生がここを読んどくといいよとおっしゃった章以外も、どの章も面白く勉強になりました。 気象予報士試験を受けたことがあり一応天気に関する知識は持っていたつもりだったのですが、目からうろこのことが沢山書かれていました。 アルベド(地球の、太陽光源からの光の全波長に対する反射率のようなもの)に関して大気中を漂う非力なはずの微粒子が関与することは薄々わかっていましたが、その微粒子は太陽の光を反射する一方温室効果もあり加温と冷却の二つの面があることは、改めて言ってもらわないと認識できなかったことです。 地球という大きな対象に、生物起源の微粒子が大きく関与していることも驚きでした。 オゾンホールの発見などの歴史も述べられており、とっても勉強になりました。 出版社からの本はもう出されていないのがとても惜しいと思います。 理系でなくても持っておいていいと思う 小さな存在がこうも地球の大気のなかで役割を演じているさまはある意味痛快でもあります。一方、大気・地球という系は単純な方程式では解き明かせないということもわかります。 大気汚染や地球温暖化など、私たちの暮らしに暗い影を落としている諸問題への正しい知見を深めるためにも、この本はもっと評価されてしかるべきだと思います。 春瀬由衣 サ

人ならざるものとの交流「天ノ狗」

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引用  アマゾン 小説投稿サイトエブリスタから書籍化した「天ノ狗(アメノキツネ)」をご紹介します! この物語はローファンタジーに該当すると思います。設定は現実世界にはないものですが、舞台は現代で、身元不明の子どもと実家が神社の大学生が主な登場人物です。 大きなる星、東より西に流る。 すなはち音ありて雷(いかづち)に似たり。 時の人の曰く、流星(よばいぼし)の音なりと。 また曰く、地(つち)の音なりと。 ここに、僧旻天が曰く、流星にあらず、地の雷にもあらず、 これは天ノ狗なり。 その吠ゆる声、雷に似たるなりと。  日本書紀 神話の一節を序章の前に位置させた意図が、最初はわかりません。 神社を実家に持つ女子大生マキが、祖父の知り合いの葬儀に出席したとき、昔に会った少年を知ります。 少年は日にあたることを異常に嫌がります。そして少年の後見という男性の橘が、少年を守るように監視下に置き続けます。――少年リョウはその橘をどこか恐れているようで……? 妙に靄がかった記憶、そしていつもとは違う思考に誘導されるマキにハラハラする一方、謎の〝黒づくめ〟の正体も気になって?? リョウの正体、リョウを狙う本当の敵に驚きます! 自然現象の描写もすさまじく、〝黒づくめ〟の目的に驚きつつ、 最終的な結末にどこかほっとする。 そんな作品です! いつもと違った日常を見てみたい方はぜひ! エブリスタからの気鋭の新人、芳納 珪さんのデビュー作をご紹介しました! 春瀬由衣 サイト訪問者の皆さまへ ブログランキング参加中です。下のリンクをぽちっと投票お願いします(๑•̀ㅁ•́ฅ✧ 人気ブログランキング にほんブログ村

情報の殴り合いの果ての世界「know」

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画像  写真AC 野崎まど著、「know」 早川書房 をご紹介します。 ご購入はこちらから 作中より文章を引用します  彼女のいう通信量というのはつまり情報分布映像(インフォトグラフィ)で見ろということだろうか。僕は言われるがままに啓示視界にフィルタをかけた。  そして、息を飲む。  部屋が血塗れになっている。  唾を飲み込む。もちろんそれは血ではなかった。 なんのこっちゃと思われたかもしれません。当然です。情報分布映像(インフォトグラフィ)とか啓示視界とか見慣れない単語がありますし、部屋が血塗れになってるのに血じゃないってまるで禅問答です。 結論から言ってしまうと、 この物語の舞台は近未来 です。 情報材 という、微弱電流で外界のすべての情報を収集し発信する素材の開発で、今とは比べ物にならないくらい世界の情報流通量が増えた世界。情報過多による精神疾患が自殺の原因の上位に来るような、脳の酷使で人類が疲弊しきった時代があり、その少し後の時間軸のなかに主人公御野・連レルはいます。 情報過多の世界を生き残るために、人類が開発した思考補助機能― 電子葉 ―の脳への取り付けが義務化されており、その電子葉を使うことで人類は世界のありとあらゆる情報を「知る」ことができるようになりました。 情報分布映像 、 啓示視界 はいわば電子葉の機能の1つであり、ゲームの中の世界のように視界のなかにブラウザのような画面を表示させることができます。 〝「知る」という言葉の意味がこの二十年で変わった〟という風に主人公は表現します。若者は電子葉を使って調べられるものすべてを「知っている」といい、老人は自分の頭のなかにあることだけを「知っている」という。その間の世代に御野・連レルがいます。 人類の生活に欠かせなくなった 電子葉 、そして 情報材 によるネットワークのすべてを開発した天才道終・常イチとの出会いにより、御野・連レルはランク5を目指します。常イチは連レルに、自由になれといってランク5を目指すよう言いました。 ランク というのは、情報によって区別された階級です。ランク0は自分に関する情報の流出を止められず、一方で他者に関わる情報をほぼ収集できません。一方御野・連レルのランク5は自分に関する情報の秘匿性は守られていながら、機

異世界転移が嫌いな人にこそ読んでほしい!「獣医さんのお仕事in異世界」

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画像: いらすとや 今日はアルファポリス文庫の「獣医さんのお仕事in異世界」をご紹介します。 ご購入はこちらから!! 物語は、例のごとく主人公が異世界に召喚されることから始まります。 しかし、彼自身のいわゆる「こちら側」での生活の描写がまったくないわけではありません。 公務員獣医、という、「獣医の地味担当」と主人公自身がいうような、家畜などの衛生を管理する――ときには行政の立場から全頭殺処分を命じなければならないような、そんな職業についている主人公。 明確に言及されるわけではありませんが、主人公には苦い過去があると考えられます。作中で頻繁に、 殺してしまう命以上の命を救ってやる 、と主人公が言う場面があるからです。 そして主人公自身、 異世界で無双できるわけではありません 。 召喚された異世界では、過去に四人の「こちら側」の人間を召喚し異世界側の問題を解決させてきた歴史があります。 彼らにとっての異世界、すなわち「こちら側」の人間は「 マレビト 」と呼ばれ、中世ほどの文明しかもっていない異世界においては豊富な知識を持つマレビトは度々国同士の均衡を崩しかねないファクターとして振る舞ってきました。 歴代のマレビトは戦術やドラゴンを手なずける技で異世界に大きな功績を残しましたが、その背後では国同士の利権が絡みます。 大国の均衡を揺るがしかねないマレビトである主人公は、むやみやたらに素性を明かすわけにもいかず、身をやつして行動する場面もあります。 一方で、戦争で名を立てたマレビトは人を救う英雄として持ち上げられますがその背後では人が死んでいます。 獣医という職業の主人公は、歴代のマレビトのようには振る舞えません。力が強いわけでも、戦術に優れているわけでもなく、ただ一人の人間として異世界に相対する存在です。 是が非でも「英雄」になってもらわなければいけない背後の思惑があり、武術に優れた歴代のマレビトと比べ獣医の主人公のマレビトとしての素質を疑問視する視線も見え隠れします。 主人公は獣医としての知識を技量で、異世界の人間たちの信頼を一から獲得しなければなりません。もちろん異世界を歩む上での理解者はいますが、十分ではありま

社会派エンタメ小説の超大作!格闘技を巡る少年たちの生き様を見逃すな!

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画像: いらすとや この小説はブログ主である春瀬由衣が師匠と勝手に呼んでいる天河真嗣さんのウェブ小説です。 カクヨムで公開されている本作、 すでに78万文字を突破している超大作 であり、まだ完結はしていません。 執筆動機は筆者の友人が言ったという「人を傷つける格闘技に意味はあるのか」という問い だといい、必然的にその問いに答える小説となっています。 筆者自身は格闘技を愛する人間ですが、業界として斜陽になってしまっているという総合格闘技の現状を変に誤魔化さず、その現状をリアルに書きだします。 そして格闘技を暴力の象徴として根絶を目指す刑事が格闘技の選手となる主人公らに暗い影を落とします。 一方、ルールに縛られたスポーツとしての格闘に意義を見出せない者たちの暴力の巣窟である「地下格闘技」の団体も登場します。 この三つ巴が物語に重厚な説得力を与えました。 作品のジャンルとして、正直どう説明すればいいのか迷います。団体や人物などは架空のキャラなれど、ペルーでの日本人人質事件や東北の地震など、実際にあった事件を扱います。その扱う事件は時間軸も空間軸も飛び越え、舞台は世界といって過言ではありません。 そしてその綿密な世界観の描写とともにこの作品の一押しポイントの1つが、格闘技を知らない者でもそのリングの中にいると思えるほどの格闘そのものの描写です。 息を飲んだり、技を繰り出したり、空気感すら伝わってくる筆力はとっても見事です。筆者自身が格闘の経験者であることもこの描写に迫力を与えている要因と考えられます。 ともかくも、いつくもの魅力があります。長編ですが、引き込まれて時間を忘れてしまうこと請け合いです。 その小説の名は 、「 スーパイ・サーキット 」 個人的には、登場する人物の歴史を知ることができる「番外編」第零章 ランウェイから読まれることをおすすめします! いつかメディアで展開されること必至です。今のうちに読んで予習しておきましょう! 春瀬由衣 サイト訪問者の皆さまへ ブログランキング参加中です。下のリンクをぽちっと投票お願いします(๑•̀ㅁ•́ฅ✧ 人気ブログランキング にほんブログ村

魂揺さぶる自分探しの戦い

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辺獄の空中庭園 ← 小説へのリンクはこちらから! ダンジョンものと呼ばれるような、仲間とともに妖魔あふれる敵地を踏破するなどという単純な物語ではない本作。 主人公はれっきとした現代社会の住人で、闘う相手は不気味な靄、仲間は少女ただ一人。 作中ではデジャブ(既視感)の対義語であるジャメヴ(未視感)を取り扱っている。何度も同じ時空をさまよっているにもかかわらず初めての経験のように錯覚してしまう少女月白と主人公は行動をともにする。 影が迫る塔内で、その影から逃れるために、主人公は自身のトラウマを想起させる化け物と戦う。 案内役のようなものと自己紹介した天使の謎、塔の謎、経験したはずの過去を実感できていない月白という少女の謎。 謎が謎を呼ぶなか、主人公は月白とともに戦い、少しずつ強くなっていく。 過去と向き合うということの魂を削るような痛みを経て頂上を目指す二人。無事に頂上に到達できるのか、謎は解けるのか。天国でも地獄でもない「辺獄」という空間で、心象世界のなかに囚われた自分自身を主人公は救えるのか。 思い出すと痛いような過去を持っている方、強くなりたいと思っていてもなかなかうまくいかない人、そんな人々に読んでほしい作品です!! ダンジョンものと侮るなかれ 投稿者:  春瀬由衣  [2018年 09月 11日 04時 55分] 特段取り柄のない主人公に、美少女の助っ人。そして見上げれば白亜の塔に、迫りくる影。 そして主人公は、天使を名乗る存在から一見理解しがたいことを告げられる。 ――この世界は、辺獄であり、主人公の心象世界である、と。 階をあがるにつれ、敵である〝影〟の強さは増し、時折主人公のトラウマを刺激する。 少女は華奢な身体の割に強く、敵を薙ぎ払っていく―― 「また助けられたな」 そう感謝し、連帯感を持った彼女は、非情にも主人公に最後の試練を与える――。 永遠に来ない〝何時か〟に自分を閉じ込める、という表現が、自分の過去と照らし合わせてもしっくりきました。 理想の自分になれなくて、悔し涙を流す全ての人に読んでほしい傑作です。  心象描写とバトルシーンに見ごたえがあります!!ぜひご覧ください😊 春瀬由衣 サイト訪問者の皆さまへ ブログランキング

深夜に読んではいけない……?めっちゃ飯テロな小説

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<2020年8月22日追記 こちらの記事でご紹介したyolu先生が、木村色吹先生と名前を変えて書籍化デビューされます! ご予約、ご購入はこちらから↓> 「異世界だろうと、ここをキャンプ地とする!」 ←小説へのリンクはこちら 画像引用:いらすとや様 これは究極の飯テロ小説である。 主人公の異世界への行き方:車で気づかずに やること:カレーを作る 全体的に:めっちゃほのぼの そんな属性の小説は、壮大な冒険譚や胸を熱くする青春群像劇、恋をしたくなる恋愛小説とも異なる趣がある。 というか、なんでカレーを作るだけでこんなにおもろいのだろう。 例によって私が書いたレビューを再掲する。 異世界ほのぼのカレー譚 投稿者:  春瀬由衣  [2018年 08月 15日 06時 03分] 異世界に転生するわけでも、転移するわけでもない。 互いの世界にとって有用な技術を伝えあうために、両世界の知的生物が交流することがあるという世界観のもと、主人公が異世界で美しいエルフ二人とただただカレーを作るお話。 軽妙な語り口とほどよいユーモア、キャラ設定などが楽しめる作品。 エルフとカレーが好きな方は読むべきです!← 異世界ならではの食糧事情も非常に説得力があり「へーそうなんだー」と物語であることを忘れて読んでしまう。 大事なことなのでもう一度言う。深夜に、読んでは、絶対にいけない。 腹ペコに、なる。(断言) 春瀬由衣 サイト訪問者の皆さまへ ブログランキング参加中です。下のリンクをぽちっと投票お願いします(๑•̀ㅁ•́ฅ✧ 人気ブログランキング にほんブログ村

空戦と友情の小説

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蒼き翼のモランデル ← 小説へのリンクはこちらから 画像引用:いらすとや 本作は「小説家になろう」にて投稿されている中編小説であって、埋もれている良作であると考えるので、ここに推薦文を書きたいと思う。 以下、小説ページに載せた自分のレビューを再掲する。 空戦と喪失と友情 投稿者:  春瀬由衣  [2018年 08月 19日 06時 46分] 初めは研修程度の軽い気持ちで派遣された内戦で、主人公は長年の飛行士仲間を失う。 代わりに実験経験の豊富な上官とペアを組んだ主人公は、友人を撃墜させた因縁の戦闘機を相手を辛うじて撃墜させるが、ペアの上官を残して手負いのまま帰還を命じられる。 友の残した時計と、「必ず戻る」の信号だけが生き続けていた5年間を経て、二人はかつての戦場にて再会する。 空戦と喪失と友情の物語です。どこか「とある飛行士への追憶」に似た雰囲気を感じました。 戦闘機が好きな人は必読です!  飛行機乗りの小説といえば「とある飛空士の追憶」を思い浮かべる人も多いと思う。(レビュー内では小説名を間違っている) ラノベ界に輝く金字塔であり、このブログで散々紹介している「エイティシックス」の作者安里アサト先生もファンだったことを公言している。 そんな「とある」がヒットしてこちらがヒットどころかレビューもわたしのもの1つなのは、いささか理不尽と思える、それくらいの出来である。 主人公にとり戦争はどこか他人事であった。それが実際に戦地に派遣され、友人を亡くし、歴戦の飛行士とペアを組み、その飛行士とも離別してしまう。 淡々とありのままを描写するその絵画性が、ことネット小説としては仇になったものか……。 読み手を惹きつけるキャッチ―なキャラは確かにないかもしれない。しかし、流行りからあえて距離を置いた今作は、それでも読み手を 読ませる 力を持っていると思う。 どうかこの作品が日の目を見、書籍化などされたら嬉しい限りである。 春瀬由衣 サイト訪問者の皆さまへ ブログランキング参加中です。下のリンクをぽちっと投票お願いします(๑•̀ㅁ•́ฅ✧ 人気ブログランキング にほんブログ村

よくも悪くも、何もかもが正反対の友軍ーエイティシックスEp.5 死よ、驕るなかれー

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読了後、表紙の配置が秀逸だと感じた今作。 表紙はこちら 引用: アマゾン 虐げられる者と迫害する者の2元論が、それを主導していた共和国の崩壊とそれに伴うエイティシックスの解放から、単純化されることなくより入り組んでくる。それを表すような表紙の構造になってます。 世界で唯一の専制君主国家となった、ロア=グレギア連合王国が、今作の舞台。前作で主人公シンエイが<聴いた>、主を失ってなお暴走するレギオンの開発者と思われる声を探し、連合王国と共同作戦をとる。 王国側の代表としてシンエイらと相まみえたのは、王位継承権を剥奪された異能を持つ王子。そして彼が率いる部隊は―― シンエイが王都で、死者の脳構造を取り込んだレギオンの声を聞く。それはあまりにも自分たちに近すぎてシンは戸惑う。そんな戸惑いを見透かしたように、王子は告げる。 これは人造妖精<シリン>であると。 ある意味、共和制として自由と平等を標榜する共和国がエイティシックスという<人ならざるもの>を作りだしたよりは人道的なのかもしれない。専制君主制という自由には遠いように思える王都では、人種を表す様々な色彩の者たちが一見平和的に交流していた。 この国では兵役を担う者が臣民、納税義務を負う者が隷民という区別がある。負うものの違いだけだと王子は笑う。人を人ならざるものと断じた共和国より人道的に思える。 しかし、シリンの正体にシンたちすら怖気だつ。嫌悪感すら露わにするエイティシックスすらいた。 シリンらは、死者の脳構造を取り込んだ、戦闘に特化された被造物。 死が定められた戦場でそれでも戦い抜くことを誇りとしたエイティシックスは、それでも人間であった。シリンは既に死んだ者であって、使い捨てられることをむしろ誇りとも捉えている。ある意味似ており、ある意味正反対。 フレデリカが言う。自分たちの存在について考えるためには、エイティシックスにとってこの出会いは重要なものであるだろう、と。 あらすじを述べましたが、実際はもっと濃い濃い物語なのです!私ごときの話術では伝えきれなひ(´;ω;`) そしてアンジュ推しの方は色々な意味でハラハラするに違いない……戦地のなかで孤立してイチャイチャすな!(Ep.5唯一のほっこりパート、なのかな???) えっと、作者サン

デジタル社会に浮き上がる人の死「dele」

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テレビドラマ化もされた、新時代のミステリー「dele(ディーリー)」についての書評です。 引用: アマゾン ミステリー界隈の作家から流れてくる「ミステリーを書く上での作法」の1つに、冒頭でとりあえず死体は転がしとけ、というものがあります。 人が死なないミステリーというのも無きにしも非ずですが、ミステリーという分野に読者が求めるのはやはり謎が解けた爽快感であったり正義のために奮闘する主人公側に感情移入したりということを読書経験として求めています。 そんなことが求められている業界で、「事件」というのは物語が始まるきっかけです。それが始まってくれないことには読者は「これでは求めている読書経験は得られない」と逃げてしまいます。 前出した作法は、そういう点で読者を飽きさせない手段として言っていることだと思うのですが、ご紹介する小説「dele」ではその点の導入が見事です。 短編の集合が全体として1本に繋がる、という形式をとる本作の舞台は、「dele.LIFE」という会社です。仕事は依頼人が生前に、自分の死後消去してほしいと依頼したデータを、死亡確認が取れ次第消去すること。誰かの死が前提となった点で、ミステリーファンのハートをつかむことに成功しています。 主人公は「dele.LIFE」に就職した祐太郎。ドラマでは 菅田将暉さん が演じましたね。 祐太郎は上司である圭司に命じられ、パソコンやスマホが一定時間以上起動されなかった依頼者の関係者と偽り、依頼者の死を確認する仕事に就きます。ある意味、堅気の世界ではグレーの仕事ですね(笑) 私が1番好きなのは、「ドールズ・ドリーム」 この短編が始まった時点では、依頼者は死んでいません。dele.LIFEという舞台に「死」が匂わせられているからこそできる展開ですね。 消去してほしいと依頼されたファイルの中身には何もありません。戸惑う二人に、コンプライアンスを無視してファイルの中身を教えてほしいと迫る依頼者の夫――。 ファイル名と夫の不倫相手のイニシャルが同じだったことにドキリとしますが、最後はほんのり切なく、温かい展開でした。 続編もすでに発売されているので、是非読みたいと思います。 春瀬由衣 サイト訪問者の皆さまへ ブログランキング参加中で

断絶は、繰り返す「86-エイティシックス-Ep.4 」

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originally posted in 2018-8-30 86シリーズの最新刊、Ep.4の書評です。 以下ネタバレが含まれますのでご注意ください。 引用:アマゾン ★。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。★ 共和国人のレーナとエイティシックスのシンは、連邦で再会する。彼らの共闘は、共和国北部の地下にあった。  今作で特徴的なのは、連邦によってレギオンから〝救われた〟立場の共和国臨時政府のなかで、ある勢力が台頭していること。  エイティシックスを正しく運用すれば十分に勝機はあったとし、〝有人式無人機〟のプロフェッサーであるエイティシックスをモノとして、連邦側に返還を求める。  有色人種だけを戦場に追いやり、自分たちはのうのうと平和を享受しただけではなく、いざ大攻勢のときには戦わずに散っていった、アルバと呼ばれる白人たち。彼らは連邦による保護下に置かれてもなお、エイティシックスを豚扱いするのに余念がない。 どの面下げて、と憤るかと思えば、シンたちエイティシックスは意にも介さず日常を送る。 強いのではなく、弱いところを擦り落とされることでしか生きてこれなかったという言葉が重い。 エイティシックスらも、白人たちのことを〝白ブタ〟と蔑んでいる。お互いに、相手を人間を思ってはいない。 共和国のアルバが作りだした壁は、エイティシックス側からも強固に補強されている。 同じ人種のアルバたちの横暴や傲慢に憤り、自分の罪のように思うレーナは、シンの「レーナは別だ」という言葉に、アネットというシンの幼なじみはシンの記憶のなかに自分がいないことに、謝罪する機会すら与えられずに苦しむことになる。 バトルの描写も、相変わらず汗を握りますが、「人間同士の断絶」ということが注意深く描かれていると感じました。 この世界観が好きでたまらない私としては、5巻が楽しみで仕方がありません。 いまからでもこのディストピアに、戦いに酔いしれてください。 春瀬由衣 サイト訪問者の皆さまへ ブログランキング参加中です。下のリンクをぽちっと投票お願いします(๑•̀ㅁ•́ฅ✧ 人気ブログランキング にほんブログ村

似たもの同士の戦場 「86―エイティシックス― Ep.3」

originally posted in 2018-8-5 えー、ハードなディストピアものの第3巻です。お待ちかねです。 以下ネタバレを含むのでご注意ください ★。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。★ 所感 読み進めるごとに、「重厚な人間劇を書かれる……実に重厚だ……」と思うほど、読み応えのある第3巻。案の定レギオンには苦戦を強いられ、共和国を彷彿させる無謀な作戦に彼らは従うことになる。 守るべきものも、帰るべき場所もないのに、何故。 そんな読むのが相変わらず辛い物語を読み終えて、読後のお楽しみの後書きに突入。 ワイ「なんだとおおおおおお」 作者曰く、2~3巻はプロットの段階では軽快なバトルものに過ぎなかったとか。 ワイ「どこにその面影があるんですか怒りますよ!」 そんな3巻です。ハイ。ハイ…… 概要 帝国最後の女帝フレデリカと、エイティシックスのシン。2人は過去に囚われているという点で似通っており、それでいて少しだけ違う。 フレデリカには、レギオンに取り込まれたかつての騎士を討たなければならないという理由があった。しかし、シンは「兄を討つ」という生きる理由を果たしてしまっていた。その点シンはフレデリカの先を歩いているともいえる。 5年後に定められていた死を前に、誇り高く戦う。そうやって折り合いをつけることで筆舌に尽くしがたい荒涼とした世界を生きてきた彼らにとって、平和に長く生きることができる世界、は苦しい呪いに過ぎなかった。 無謀な行軍で討ち果たすべきは、生き残った人類の希望のすべてを射程に収めた要注意戦力。そしてくしくもそれは、フレデリカが愛した近衛兵の亡霊だった……。 絶体絶命のシンを救ったのは、幼い女帝とかつてのハンドラー。互いに死んだ者と思っていた2人が再会する。1巻の終わりに、やっと我々は追いついた。 好き……救いようのない世界好き…… 4巻が楽しみですッ 春瀬由衣

耽美な束縛愛に身を投げろ「愛に飼われて 騎士団長と奴隷姫」

originally posted in 2018-7-24 城月りりあさん[ @ RiriaShirotsuki   ]のデビュー作、「愛に飼われて 騎士団長と奴隷姫」のレビューです。 小説投稿サイトエブリスタの「 エブリスタ小説大賞2017 ティアラ文庫&オパール文庫 オトナのラブストーリー大賞 」を受賞した本作。 ファンタジー世界における甘々の恋愛モノで才能を発揮されている城月りりあさんのデビュー作となった本作も、とっても甘い情事の描写があります。 ええ、未成年にはもったいなくて見せたくないほどに(`・ω・´)←え しかし、この作品の第一の魅力は謎に満ちた登場人物であると私は思います。 記憶を喪失したまま奴隷商人の手から逃れるべく走るオフィーリア、王族に表れる青い瞳を持つ騎士のルーク、王位継承権を争う二人の王子。 情熱的な愛の言葉に、見え隠れする互いの苦悩と葛藤。 そしてハッピーエンドの際には、全ての謎が収束し見事の一言でした。 甘々マイスターと勝手に呼ばせていただきます!←無許可 皆さんもぜひ書店などでお買い求めください~ 春瀬由衣

――安寧は、囚われと変わりないから 「86-エイティシックス- Ep.2」

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originally posted in 2018-7-8 86-エイティシックス-Ep.2 ラン・スルー・ザ・バトルフロントのレビューです。 ※シリーズ2作目の本著ですが、以下の書評には1作目のネタバレが含まれます。ご注意ください ※ ★。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。。o○o。★ レギオンから土地を取り戻し、連邦の手によって再会したレーナとシン。これは彼らがレギオンの大侵攻から生還する前のお話。 「行きつくところまで行きついて」、病室で目覚めたシン。地の果てから湧いてくる無人機”レギオン”の生みの親である帝国は、革命で連邦と名を変えていた。その暫定大統領に保護され、一時の平和を享受するかつてのエイティシックスたち。 暫定、大統領 連邦にも事情があった。レギオンの攻勢に耐えるべく兵士が必要なのは変わりなく、革命以前の階級のしこりもまだ残る。 そんななか、彼らエイティシックスは、再び戦場に向かう。幸せになれと願う大人には残酷だが、死した仲間を想うからこそ、平和な町は自分たちの居るべき場所ではないと知る。 同時に、大統領に保護されていた帝国最後の女帝フレデリカにも、戦地に赴く理由があった――。 前作に引き続き、熾烈な戦いを強いられる子どもたちの物語。彼らにとって、戦地の存在を忘れ安寧を享受することは死者の想いを継ぐことと同義ではなかった。 上下巻の上である本作はそれだけで完結しているわけではありませんが、新しい土地と新しいキャラクターの織りなす物語にもっともっと入り込みたいと思ってしまう構成でした。 個人的には、フル・フロンタルの某セリフを思い浮かべたり……(笑) 下巻も読み次第レビューさせていただきます! ディストピアに生き様あり。 春瀬由衣

――月に導かれ、彼らは忘れていく「月の輝く夜、僕は君を探してる」

originally posted in 2018-6-28 柊永太著、月の輝く夜、僕は君を探してるの書評です。 そして、今年の全国ビブリオバトルで私がプレゼンしようと思っている本です!!!! エブリスタで仲良くして頂いていた柊さんが書籍化したときはとっても嬉しかった一方、自分も頑張らなきゃとライバル心がメラメラしました(笑) さて、本題です。 一見ただの青春群像劇……? 晦人(かいと)と朔奈(さくな)、他の仲間たちとたわいもない話をして歩く日常。そんななか各人の誕生日を聞こうという流れになり、晦人は仲良し組の誕生日を聴いていく。 ――その刹那、気づかず道路に出てしまっていた朔奈が、トラックに呑まれた。晦人はほのかに思いを寄せる相手の誕生日だけ聞けぬまま、永遠の別れを迫られて……? 晦人はしばらく学校を休んでしまいます。仲良し組も各々心に重いモノを抱えながら過ごしますが、冬休みが終わると校舎内に幽霊が出るという噂がます。 そこからというもの、一気にジャンルが「青春」から「ミステリー」に。 星と記憶 幽霊は朔奈でした。しかし、朔奈は不思議な行動律に支配されあるランダムな時間帯に彼女は記憶を失い晦人たちも彼女に会えません。 決定的だったのは、あれほど仲のよかった仲良し組たちが順番に「 朔奈の記憶をすっぽりと失います 」 晦人に残された想い人の記憶のタイムリミットは?記憶が失われる意味は?表紙の彼女が月を抱いているのはどうして?? 占星術や惑星の運行に詳しい&興味がある人は、とっても楽しんで読めると思います。もちろん私のように知らない人も!! 今年全力でお薦めしたい小説の1つです。 皆さん、買わないと損ですよ! 春瀬由衣

彼らにとって死さえ自由の平原だった「86―エイティシックス― 」

originally posted in 2018-6-24 86―エイティシックス― 電撃文庫 安里アサト著についての書評です。 85の区画内に、優等人種の白人だけがのうのうと暮らし、ヒトとして認められなかった者(有色人種)だけが戦闘区域で次々と押し寄せる敵部隊に死んでいく…… 俗に86(エイティシックス)と呼ばれるようになった有色人種たちは、共和国の自由と平等の概念からはみ出した豚として扱われ死んでいく。そして共和国は、「人間の尊厳を守り戦時増税もせず敵を跳ね返し続ける国」として国民(白人たち)の喝采を浴びる…… ラノベと侮るなかれ。使われている通信技術が”知覚同調”でなく”無線”なら、押し寄せる敵が”AI型無人機”ではなく”ISに洗脳された自爆兵器”なら、86(エイティシックス)は現代劇になる。そして、今もなお存在し続けているのかもしれない。 存在してはならない者たちの悲哀―― 人の意識の奥深くに眠る差別意識と、言葉のすり替えによる安寧に、痛々しいまでに明かりを当てた本作は、光を覗き込む側の私たちが光に目を潰されるかもしれない、衝撃のディストピアファンタジーである。 兎に角、読んでくれ。しゅごい。 春瀬由衣

手に汗握る身分差恋と空戦「とある飛空士への追憶」

originally posted in 2018-4-18 「とある飛空士への」で始まる恋と空戦の物語の一冊目の物語です。 恋と空戦の物語とあるように、兎に角何に対しても手に汗握ってしまう作品。 敵対しあう二つの国の民族の血を引く主人公狩乃シャルルは、混血児を指す蔑称の「ベスタト」という最下層民として帝政天ツ上の民と神聖レヴァーム皇国の民にいつもいじめられていた。  彼の母は幼い主人公を残し言いつけを守らなかったことである屋敷の召使いを解雇され死ぬ。それから彼はいつも一人だった。  凄惨なそのくらしに主人公が何とか耐えられたのは、とある貴人のお嬢さんとの淡い思い出だった。死にかけていた彼は神父に助けられ、やがて傭兵として飛行機に乗ることになる。  空には身分が無い、それが彼を空に向かわせる要因だったが、ある日敵国の包囲網に囲まれた孤島から次期皇妃を脱出させる任務に就くことになる。しかしお嬢さんはあの頃と違い、監視される暮らしに心を閉ざして笑み一つ見せない。  一方彼女は幼い頃に規律を破って寝るまでの間寄り添ってくれた女性の召使いに恩を感じており――。  敵国の編隊から逃げる描写は息を呑み、死を間近に感じたお嬢さんは生をその身に取り戻す。生死の境で彼女をファナと呼んだシャルルは、しつこく追尾してきた敵の戦闘機の一翼がもげたことを確認した。  恋にも戦闘にも、別れにも心打たれる傑作です。飛行機好きはたまらんだろうなあ。  ぜひ手に取って結末をみてくださいね(*'ω'*) 春瀬由衣

トイレから始まる急接近「ロールアウト|クジラの彼」

originally posted in 2018-3-13 短編集「クジラの彼」より「ロールアウト」のご紹介です。 【おすすめポイント】 過去にご紹介した表題作「クジラの彼」と同様、自衛隊員の男性と一般人の女性のラブコメです。 少しだけ異なるのは、女性側が航空機を設計するメーカーの社員であるという点です(接点あり)。 現場で働く隊員の総意を背負う高科と、予算や設計の都合上からトイレの「コンパートメント化」(音が漏れない仕様と言った意味のようです)に反対するメーカーのバトルの中、メーカー側の唯一の女性として参戦した絵里は男性トイレを通路として使うことを要求する高科に反発を覚える。 ある日絵里は男性トイレのなかに一人取り残されそこに用をたそうと男性が来てしまい……! 男性と女性の排泄の在り方、考え方の違いから生まれた摩擦は、膝を突き合わせて話し合った結果相互理解に至る。それはやがて恋愛感情にも飛び火して……? トイレの問題から始まる恋という着眼点はなかなかないと思いました。自衛隊とメーカーのやり取りが想像できて楽しいです。 ……くれぐれも食事中には読まないでください(笑) 春瀬由衣

コンビニ店員と客の物語「コンビニ物語~カウントダウンシガレット~」

originally posted in  2018-03-07 エブリスタ発短編集「5分後に涙のラスト」2作目レビューです 【おすすめポイント】 なんでもないコンビニ店員が、ある客の不思議なタバコの買い方に気づくところから物語は始まる。 一日経る度に一つ数字の小さいタバコを注文するその老人が30番を頼んだころに、店員は客の異変に気付く。 面白いタバコの買い方をする客という認識からだんだんと思い入れが強くなり、主人公はカウントダウンを心の中で応援するようになる。しかし客の異変に気づいてからは、その時間帯は苦痛になってきて…… 一番のタバコを渡す日が永遠にこなければいいのにと思う一作。 エブリスタ内での短編新人賞「妄想コンテスト」入賞作からさらに珠玉の作品を集めた「5分シリーズ」は、河出書房から続々刊行中。 春瀬由衣

変わっていく過去と現在に違和感なく引き込まれる「不変のディザイア」

originally posted in  2018-03-05 エブリスタ作家の短編集「5分シリーズ」内の感動の一作 【おすすめポイント】 過去の自分にメールが送れるアプリを主人公が使うところから話は始まる。やや半信半疑ながらも、目の前の悲劇をなんとしても避けるべく一年前の自分にあの手この手で愛する人との交際を諦めさせようとする。 メールを過去の自分が見たことによる過去の変化は、現在の自分の記憶に”付け加えられ”ていく。メールを送るたび過去は変わり、主人公はそれを認識しては落ち込む。どうやっても悲劇は避けられないのか……? 「ああまた記憶が上書きされた」というスタンスから「ああそういうこともあったな」に変わっていく過程に違和感がない。そして”付け加えられた”記憶を確かに”思い出す”たびに、変えた過去には幸せが付加されていく。 悲劇は、ある意味避けられなかった。しかし、アプリは死にゆく主人公に一筋の希望を与える。 手の込んだプロットに感服。涙活したい人におすすめかも。 エブリスタ内での短編新人賞「妄想コンテスト」入賞作からさらに珠玉の作品を集めた「5分シリーズ」は、河出書房から続々刊行中。 春瀬由衣